コラム
その列は、道端に投棄された紙誌の束を、親指で擂潰して進んでいる。その列は、その原子を分画する終局的な表象がなく、感覚的な波のように見える。その波は、磁石が砂鉄を左右に泳がせるように、皮相の記憶を揺すぶり、ときに無邪気な列が地平に沿った光を浴びてその身体をどこまでも延ばし、その果てには、空閑の万華鏡と同質の恐怖をもたらす。
不意に動いた。視界の変容は、時空の時空にあるまじき客体の姿を射影した。それは生活だった。追うように駆けた。冷え切った秋風に凍みた歯茎は、花婿の全身であった。増殖する蔦を必死に掻き分け、結局、泳いだ方が早いことに気が付いたのは、よくある放置ゲームのデイリーミッションの更新を伝える通知と、ほとんど同時だった。
このような状況だから、生まれて初めて愛について考えてみる。そういって彼は、スマートフォンの生体認証に数回失敗しながら、おもむろにオンラインの辞書で愛について検索して、その意味を読み上げ始めた。僕は彼を愛しているようだ。沈底した数ミリアールの悲恋を同心円状に延ばしても、変わらない密度が、そこにはあった。あの灯台を知っている。芒散る野に寂ぶ鉄路を蹴って、蹴って、蹴り飛ばして、そこで、自分が或る十字路の中心に寝転んでいたことを思い出した。
爪も入りきらないようなポシェットから、可燃性のガスが湧き立つ。延ばし切った全身は、朝を告げる最も美しい光を浴びる。